ヴルカヌス・イン・ヨーロッパプログラム
 日本人学生対象

 

大矢修司

ヴルカヌス・イン・ヨーロッパ2011参加
ZF Friedrichshafen AG(ドイツ)にて企業研修
応募当時、大阪大学大学院 在籍

<はじめに>

これは2011年度のヴルカヌスプログラムを通して、ドイツの自動車部品会社ZFに派遣された一つの体験記である。2011年度というのは、各学生がヨーロッパに派遣される直前に、東日本大震災が起こった。日本がこれまで以上に注目されていた時期である。派遣生は、日本中が直面する事になった節電や原子力問題を欧州から客観的に眺める、あるいは欧州で当事者として数多くの質問を受ける立場であったということを読者は想像して欲しい。
さて私の経験は、当初予想していたものと大きく異なった。私はドイツでは日本人学生を避けてドイツ語にどっぷり浸かる生活をしようと決意していたが、結果的には同期の日本人ヴルカヌス生が、欧州での私の生活を豊かにし、いろいろな刺激を与えてくれた。これから、この様に至った経緯、ドイツとZFという会社について説明し、学んだ事を、将来参加を希望している学生に伝えたい。ただし、全体を通して注意してもらいたいのは、この体験記は一人の学生が経験したことで、必ずしも皆に当てはまることではないということだ。ヴルカヌスプログラムは、それが良い所なのだが、個人の自由度が非常に大きい。もちろんセンターが全面的にサポートしてくれるが、研修国も企業も違うのだ。日本の自動車会社と韓国のIT企業を、同じアジアだからと同様に扱う人はいないであろう。

<語学学校時代>

語学研修のためミュンヘンに住み始めた時、周りの物すべてが新鮮であった。ミュンヘンと聞くと大都会をイメージしがちだが、実は人口は130万人。電車で30分も走れば牛や森が現れる。路線が10本程あるが、同一のホームに到着するのには驚いた。乗り換えが同じホームで行えるのだ。ホストファミリーはボリビアからの移民だった。他にハウスメイトがいたが、メキシコ、ブラジル、ベネズエラからで、自分が南米にいるのか、ドイツにいるのか分からなかった(笑)。語学学校の授業は、3時間と4時間半が交互に週5日間続くものだった。始めの頃はこれでも大変で、しかし急速にドイツ語が伸びていることが実感できた。
ただし、人間慣れてくるものだ。次第に不満も出てくる。2011年度はドイツ派遣の学生が多く、ドイツ語の初級クラスの多くは日本人という環境であった。また周りの多くはティーンエージャーで馴染めず、結局は同期の日本人と関わっている自分に嫌気もさしていた。もっと語学を伸ばせるのでは、もっと現地の文化を知れるのでは。もちろん、少しは努力した。中級のクラスに変えてもらうように校長先生に頼んだが、これは手違いで時期がずれてしまい上手く行かなかった。スタムティッシュと呼ばれる、現地の大学で学んでいる日本人とドイツ人の学生の集まりには良く参加し、お酒も飲みながら気軽にお互いの言語を練習した。しかし、今考えれば語学学校時代はもう少しドイツ語を向上させる努力が出来たと反省している。

 

<企業研修>

語学研修が終われば企業研修だが、その前に大きな仕事として引越がある。4ヶ月間みっちり磨いたドイツ語で電話をかけまくり、なんとか契約できた。ドイツと言えども英語が話せるのは学歴の高い人や若い人だけである。ZF社があるFriedrichshafenは湖の畔にありアルプスも望めるスイスとオーストリアに近い美しい街だが、人口6万人に満たず非常に田舎である。そこにZF社というドイツで3番目、世界でもトップ10に入る自動車部品会社があるのだから、日本で言う企業城下町である。勤務体系について日独で比較してみると、日本では、大企業でさえ有給休暇が十分に取れない事がほとんどであろうが、ドイツでは1ヶ月休むことも普通である。更に驚くのは、ZF社ではフレックスタイムが導入されていて、残業した時間を貯めれば、休日を作る事が出来るのだ。その制度を使いにくい雰囲気は全くなく、実際私も研修が始まった直後に休みを取って旅行に出かけた。非常に良い労働環境である。またインターンシップ生もたいへん多い。なぜなら、大学の最後の学期にインターンシップをしなければ卒業出来ない事が多いそうだ。これも日本が参考にすべき制度であると感じた。
ZF社では研究開発部門の素材を扱う部署へ配属になった。研修の初めに「なぜ外国人研修生なのか、なぜ日本人なのか、なぜ私なのか。どのような働き方を期待されているのか。」と上司へ質問した。私は「日本の自動車メーカーとのやり取りを期待している」という回答が返ってくるものと思っていたが、答えは非常にシンプルで、「私が統計学の専門家だから。」との事だった。確かに統計学を専攻にしているが、立派に解析された素材のデータを説明されながら、今回のインターンシップでは解析手法も自分で決めて欲しいと言われた時には重いプレッシャーを感じた。
しかし、実際に研修が始まると違った展開を見せた。唯一直属の上司だけは少し統計学に馴染みがあったが、それでも私の方がうんと知識があり、ほとんどの同僚が統計学を理解していなかったのだ。当初の想定と異なる困難だったが、この事実に気がつく事にも時間を要した。専門と異なる素材の部署に配属された私には、素材分野はさっぱり分からず全貌をつかむのに苦労したし、パワーポイントを用いた説明などは大変立派に見えたのだ。
素材の基礎についても学びながら、統計解析をどのように進めるか話をするうちに、私の仕事は基本的な解析(線形回帰分析)を間違いなく用いる事、さらに高度な手法(ニューラルネットワーク)も用いて比較する事になった。いや、なったというよりは、むしろ上司と相談し自分で決めた。私は統計学の専門家として呼ばれたのだ。
しかし解析が難しいのは、しばしば数値の意味する所が、素材分野から見るとおかしいな見解になり得ることである。素材部門の知識を汲んで解析を行い、逆に私の解析結果を自分の専門外の素材部門の人に説明する。しかしマネージメント層は英語が出来ても、実験をしている人達はドイツ語しか話せない。根気良く説明してマニュアルを残し基本的な解析が出来るよう配慮し、また可能な限り視覚的に高度な解析との比較を示した事が成果となった。

<最後に>

企業研修では、専門性を活かしてデータ解析が出来た。確かにそうなのだが、正直に言うと本当にしんどかった時期もある。自分の仕事について相談できる相手がいないので独学で勉強をするしかなかったし、解析結果を出しても理解してもらえない。
部署内では異色の仕事なので一人で行う仕事がほとんどだった。簡単に言うと100行~500行の数値で埋め尽くされたエクセルシートを毎日眺める生活である。ドイツ語が流暢ではなかったので、なかなか仕事以外の交流が図れなかったし、家でも話す人がおらず、この環境は私の性格的に本当につらかった。ブラジル人のインターン生がいた期間は職場にも馴染めたが、それ以外では孤立しがちで自分ではどうしようも出来なかったのも事実である。
そんな時、ヴルカヌスの同期と週末を過ごすことが、すごく良い気晴らしになった。たまには真面目な話もした。本当に個性的なメンバーが集まっていて、驚く事も多く、彼らから価値観を揺さぶられるような影響も受けた。語学研修の最後にドイツ組の同期で集まった時も、皆が色々な考えを持っている事に驚いた。同期同士で刺激し合えば良いという人。これからの目的を見つけることが目的の人。自分の考えが唯一でないことに気がついた。
個性的というのは言い換えれば周りに流されない人であって、それにより腹が立つことも少なくはなかったけれど(笑)、彼らと同期でよかったと思う。ある者はどっぷり現地に浸かり、ある者はヨーロッパ中旅をした。異なる価値観の者が、異なる文化で経験したことを、皆で共有できる。これがこのヴルカヌスプログラムの他にはない魅力だと思う。
私はプログラム終了後、IT系のベンチャー企業から内定を頂いた。海外マーケティングを志望しておりヴルカヌスでの経験が活かされるだろう。またデータ解析にも携わりたいが、エンジニアではなく、マーケティングや企画の立場から関わることを希望している。実際に研究開発部門でのデータ解析を経験したからこそ、より自分に適した判断が出来るわけで、これもまたヴルカヌスの経験が活かされている。自分の専門の道を究めたい者も、幅広い世界を見たい人にも、このヴルカヌスプログラムをお勧めしたい。

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ヴルカヌス・イン・ジャパンは、日欧産業関係の架け橋となる若手人材の育成を目的とした企業インターンシップ事業です。毎年20~40名の欧州の理工系大学生が参加します。これらの欧州大学生の受入れに関心のある日本企業を毎年募集しています。募集要項はこのホームページで随時お知らせします。

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