カーボンニュートラルに向けた日欧貿易産業会議

June 30 2021

日本とEUは、2050年までにカーボンニュートラルを達成するという共通目標を掲げています。そして互いに政策を実施し、投資を支援していくことで、持続可能なグリーン成長の基盤を築いています。近代的で競争力のある経済には、クリーンテクノロジーにおけるイノベーションとその商業化の成功が必要といえるでしょう。

2018年に締結された日EU経済連携協定は、6億人以上の人々と世界の財・サービスの価値の3分の1をカバーするオープンな貿易圏を創出するものであり、持続可能な開発に対する日欧の共通のコミットメントを再確認するものです。脱炭素社会に向けた産業ソリューションにおいて、日欧間の貿易・投資の促進に貢献することができます。

再生可能エネルギー、水素、クリーンモビリティなど、脱炭素化に貢献する多くの分野ですでに日欧はパートナーシップを進めています。そしてこの協力関係を更に拡大することで、EU、日本、その他の地域における低炭素産業ソリューションの、費用対効果の高い大規模な展開を加速することができます。

二国間貿易の強み・規制や基準に関する日欧協力の効果を活かし、2050年までにカーボンニュートラルを達成するために、本イベントではその鍵となる技術や分野である再生可能エネルギー、水素、クリーンモビリティ、そしてこれらの産業に必要な資源に焦点を当てていきます。

また、グリーン成長に関連する潜在的な機会や、経験に関する情報交換を促進することを開催目的としています。

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要約

開会の辞

 開会挨拶では、欧州委員会と経済産業省のご登壇者様より、気候変動問題に熱心に取組む上での日欧協力の重要性を強く示していただきました。欧州委員会気候行動総局(DG CLIMA)のジェイコブ・ワークスマン様は、より持続可能で利益を得られる経済となるために、日本・EUともに費用対効果の高いクリーンエネルギーへの移行を促進する必要があると述べました。欧州委員会貿易総局(DG TRADE)のエワ・シノヴィエツ様は、持続可能性と綿密な関係にある貿易が、この目的を果たす上で大きな可能性を持つと語り、貿易・投資促進の共同アプローチの事例として2019年に発効となった日EU経済連携協定(日EU・EPA)や、最近発表された「日EUグリーン・アライアンス」を例に挙げました。経済産業省の表尚志様は、気候中立性を実現するためには二国間の対話と協力が必要であることに同意をしつつも、欧州とアジアの国々では再生可能エネルギーのコストが異なるため、現実的な努力が必要であると述べました。

 また、中期的な気候目標については、ジェイコブ・ウォークスマン様は、グリーンディールと次期法案「Fit for 55」に焦点を当て、EUの気候変動に対する意欲と法制の枠組みを説明され、表尚志様は、革新的な技術の研究開発を加速するための日本のグリーン成長戦略の要点を挙げる等、日欧ともに、グリーン・トランジションは双方の社会および二国間関係の中心にある、と述べました。

セッション1: “再生可能エネルギー:経済の源流における脱炭素化”

 再生可能エネルギーに焦点を当てた最初のセッションでは、ブルームバーグNEFのデイビッド・カン様が世界のトレンドをご紹介された後、Enel Green Power社のチャン・グ・ユン様と関西電力株式会社の桒野理様に欧州・日本の両面から、再生可能エネルギーへの関心が世界的に高まっているとの共通認識とともに、気候目標の達成には更なる取り組みが必要であるとご指摘いただきました。デイビッド・カン様は、欧州とアジアの国々が協力して再生可能エネルギーの低コスト化および大規模展開を行うべきと述べ、チャン・グ・ユン様は需要に柔軟に対応するためにグリッドエッジ技術を最適化する必要があると述べ、桒野理様は化石燃料の脱炭素化を提案されました。また、Enel Green Power社と関西電力株式会社は大手発電会社として、脱炭素化、デジタル化、電化に向けた再生可能エネルギーの世界的普及に貢献していく旨を表明されました。

セッション2: “水素:低炭素エネルギーを貯蔵・供給するための新たな方向性”

 続いて、IPHEのティム・カールソン様、欧州水素・燃料電池協会(Hydrogen Europe)のジョルゴ・チャツィマルカキス様、水素バリューチェーン推進協議会(JH2A)の福島洋様により、日欧双方にとっての水素の意義・利点をご説明していただきました。ティム・カールソン様はまず、世界各地で様々な規模の水素関連国家ロードマップが策定されたり、国際イニシアチブが発足されていると指摘されました。例えば、JH2Aが言及された「水素基本戦略」は、日本政府が2017年に発表したロードマップの一つです。水素への関心は各国諸事情により異なるとしつつ、欧州委員会と日本は水素のイノベーションを推進し、規制枠組みを確立し、グローバル市場に必要な投資インフラを構築する上で主導的な役割を担っていると強調されました。

 また、JH2Aと欧州水素・燃料電池協会(Hydrogen Europe)双方が水素の環境的利点を挙げた上、JH2Aは水素のエネルギー安全保障面および経済面での利点にも言及されました。 ジョルゴ・チャツィマルカキス様はグリーン水素が経済の循環性を高めることから、クリーン水素プロジェクトを促進するため、グローバルなオークションシステムに基づく統合市場の構築を支持されました。福島洋様は、水素社会の実現に向けて政策を進める日本政府に後押しされて実施されている水素プロジェクトの例をご紹介されました。

Q&Aセッション1: “クリーンな産業、輸送、建築のためのクリーンエネルギー”

 1回目のQ&Aでは、セッション1・2の講演者6名の方にご登壇いただき、視聴者からの質問に答える形でそれぞれの見解を述べていただきました。
 ”水素供給源に関する認証制度”については、ティム・カールソン様(IPHE)は、欧州ではすでに制度があるが、日本は国際レベルではなく、方法論についてはIPHE加盟国で未だ議論中であると述べました。また、”日本で風力発電やグリーン水素の導入が遅れている主な理由”という質問については、ご登壇者様よりコストの問題が大きいとのご回答がありました。最後に、各ご講演者様より、クリーン・エネルギー移行へ向けた日欧協力関係を強化する実用的な手段については、ガイドライン策定、オークションの導入、目標値および共同認証制度の確立、ビジネスケースの実証、水素技術の成熟などが挙げられる、と述べていただきました。

セッション3: “交通:ゼロエミッションモビリティに向けて”

 自動車産業に集点を当てたこのセッションでは、マッキンゼー・アンド・カンパニーのルース・ホイス様が、運輸部門はCO2世界排出量の23%を占めると指摘されました。日本BMW株式会社のルッツ・ロートハルト様は、トヨタモーターヨーロッパ株式会社のフェリー・フランツ様と共に、長年化石燃料車に頼ってきた自動車会社がどのように新しい技術を導入し、低炭素車を生産しているかを紹介されました。
 ルース・ホイス様は、行政規制が自動車産業の変革を後押しし、ライフサイクル全てに及ぶ意欲的な脱炭素化目標の設定を促したとの見解を述べていただきました。この点に関しルッツ・ロートハルト様は、パリ協定の目標および2050年CO2ニュートラルの達成に向け、BMW株式会社はライフサイクル全体でどのように二酸化炭素排出量を削減するかを説明されました。
 また、フェリー・フランツ様は、トヨタ自動車のサステナビリティへの積極的な取り組みをご説明されました。今後の課題については、電池生産の拡大および次世代自動車のスケールアップに必要なインフラ構築が挙げられ、日本BMW株式会社は主に電動自動車を、トヨタモーターヨーロッパ株式会社は主に水素自動車を開発しながら上記課題に取り組んでいます。

セッション4: “脱炭素経済のための原料”

 セッション3にて脱炭素経済への移行に必要な技術について触れた後、最後のテーマセッションでは、これらの技術の中核となる原材料に焦点を当て、各登壇者様より資源の安定供給の確保に向けた知見・経験・取組みを共有していただきました。
 経済協力開発機構(OECD)のロドルフォ・レイシー様は、資源供給リスクを避ける上で、リサイクル、代替品の発見、貿易の拡大がいかに重要であるかを強調されました。続いて花澤篤哉様(ユミコアジャパン株式会社)は、カーボンニュートラル実現に向けた同社の取組みのうち、再生可能エネルギーの積極的使用、使用済み製品のリサイクル率を向上、という2点に焦点を当ててご説明いただきました。最後に、長谷川稔様(双日株式会社)は、グリーン・トランジションにおけるレアアースの重要性と、日本が直面している供給リスクについて言及され、同社が原料の長期安定確保を使命とし、原料供給源の多様化を目指していると述べました。

Q&Aセッション2: “商品やサービスのライフサイクル全体でのゼロカーボン化”

 2回目のQ&Aでは、セッション3・4の講演者6名の方にご登壇いただき、視聴者からの質問に答える形でそれぞれの見解を述べていただきました。
”電動自動車が化石燃料を用いた電力に依存していることについてどう思うか”という質問については、ルース・ホイス氏(マッキンゼー・アンド・カンパニー)は、官民・国内外で足並みを揃えることの重要性を指摘し、フェリー・フランツ氏(トヨタ モーター ヨーロッパ株式会社)とルッツ・ロートハルト氏(BMW株式会社)は、技術の進歩が解決策となるとの考えを示しました。
 ”ネットゼロを目指すにあたり、企業側はどのように需要を減らす取組みができるか”という質問については、ルース・ホイス氏(マッキンゼー・アンド・カンパニー)は、モビリティに関する需要は今後も拡大していくことが予想されるため、需要自体を減らしていくことは産業界にとって難しいだろう、との見解を述べました。ロドルフォ・レイシー氏(OECD)は、CO2オフセットを購入することが現時点での解決策であり、経済を循環させることが重要であることを指摘しました。
 ”理想的なパートナーシップ”については、花澤 宏哉氏(ユミコア・ジャパン株式会社)より、エネルギーの供給面とリサイクルの技術面を組み合わせて全体としてバランスの取れたものが望ましい、との見解を述べていただき、”レアアース輸入の中国依存については政府と協働しているのか”という質問には、長谷川 稔氏(双日株式会社)より、日本政府と共に、他国への依存度を下げるために取り組んでいるとの現状を述べていただきました。

閉会の辞

 経済産業省、欧州委員会より閉会の辞を賜りました。
 経済産業省の表様は、規制が再生可能エネルギー導入促進の妨げとならないよう、議論し変更ていくことに前向きであること、そして、日本の再生可能エネルギーのコストが高い理由について、日本とEUの置かれている環境の違いをご説明頂くとともに、その要因を踏まえた上でビジネスチャンスが広がる、と示唆していただきました。また、欧州委員会成長総局(DG GROW)のジョアキム・ヌネス・デ・アルメイダ様より、低炭素製品の国際規格やルールを確立する等、共に議論し協力していくことで、貿易、ビジネス、政策の交流をさらに促進したいという考えを示すと共に、第三国市場における日欧協力の重要性について述べていただき、閉会となりました。

登壇企業/団体

欧州委員会

欧州委員会-貿易総局(DG TRADE)

欧州委員会のEU域外国との貿易政策や経済協定を担当しています。第三国との二国間、地域間、多国間協定の交渉を行い、その実施を監視します。EUは近年、日本と経済連携協定を締結しており、共通の価値観に沿った高い基準を定めた上で更なる経済交流を進めております。|欧州委員会貿易総局について知る

欧州委員会-成長総局(DG GROW)

欧州委員会の域内市場・産業・起業・中小企業総局は、開放されたモノ・サービスの域内市場を確保した上で、主に中小企業支援及び産業財産権をの施行を進めることにより、EUをスマート・持続可能・包括的な経済に変えることを目指すとします。 |欧州委員会成長総局について知る

欧州委員会-気候行動総局(DG CLIMA)

気候行動総局は、欧州を世界初のカーボンニュートラルな大陸とするための、EUの気候政策と戦略の策定及び実施を担当しています。環境金融の拡大に貢献し、EUや加盟国の政策や予算に気候変動対策を浸透させ、気候変動交渉に参画しています。気候行動総局はEU及び国際レベルで地球温暖化問題に取り組むことを目的としています。||欧州委員会気候行動総局について知る

経済産業省

日本の行政機関(省庁)の1つ。経済・産業の発展および鉱物資源、エネルギー資源に関する行政を所管。産業技術環境局は、日本の鉱工業の科学技術の進歩を高めるために、オープン・イノベーション・システムの構築を目的としています。また、通商政策局は、貿易及び経済の分野での国際協力に関する総合的な事務の統括、政策の立案と推進を実施しています。|経済産業省について知る

ブルームバーグNEF社

ブルームバーグNEF社は、発電、運輸、産業、建築、農業の各分野がエネルギー転換に適応するための道筋に関する戦略的リサーチサービスを提供します。BNEFが提供するする調査・分析、データ、研究は、世界中の新聞記者や政策立案者に広く活用されています。 | ブルームバーグNEF社について知る

Enel Green Power社

Enel社はローマに本社を置く多国籍企業であり、世界有数の総合電力会社です。世界最大の民間送配電事業者および再生可能エネルギー発電者であり、最大級の顧客基盤を持っています。Enel Green Power社は、再生可能エネルギー発電所の開発・運営に特化したEnel社の子会社です。Enel Green Power社は世界32カ国で事業を展開しており、欧州および水力発電を主に1,200以上の発電所を管理しています。| Enel Green Power社について知る

関西電力株式会社

関西電力は、関西地方を中心に電力、熱供給、通信、ガス供給などの事業を展開しています。また、欧州の風力発電事業を始め、世界12ヶ国で合計20のプロジェクトに参画して分かるように、国際事業も積極的に展開しています。関西電力は1951年に設立され、約18,000人の従業員を擁しています。| 関西電力株式会社について知る

国際水素・燃料電池パートナーシップ (IPHE))

国際水素・燃料電池パートナーシップ (International Partnership for Hydrogen and Fuel Cells in the Economy:IPHE)は、水素・燃料電池に係る技術開発、基準・標準化、政策情報交換等を促進するための国際協力枠組みの構築を目指して、2003年に米国を中心に提唱され結成された機関です。IPHEは、水素および燃料電池をより低コスト化するための情報交換の場を提供しています。| 国際水素・燃料電池パートナーシップ (IPHE)について知る

欧州水素・燃料電池協会(Hydrogen Europe)

欧州水素・燃料電池協会(Hydrogen Europe)は、水素および燃料電池技術の提供をサポートする、大企業から中小企業までの多様な業界関係者からなる組織です。欧州の水素・燃料電池業界を代表する組織であり、260以上の会員企業と27の加盟国団体が参加しています。欧州の低炭素経済のための燃料として、水素の導入を可能にすることを目的としています。 | 欧州水素・燃料電池協会(Hydrogen Europe)について知る

水素バリューチェーン推進協議会(JH2A)

水素バリューチェーン推進協議会(JH2A)は、水素分野における関連団体との国際提携およびサプライチェーンの構築を推進するために2020年12月に発足しました。JH2Aは、政府への政策提言、関連団体との国際協力、調査・分析を行います。現在、195の企業、団体、地方自治体が入会しています。| 水素バリューチェーン推進協議会について知る

マッキンゼー・アンド・カンパニー

マッキンゼー・アンド・カンパニーは、世界の主要な企業、政府、機関をサポートするグローバルな経営コンサルティング会社です。産業別ソリューション、機能別ソリューション、経営別ソリューションを提供しています。1926年ロンドンに設立されて以来、世界65カ国以上に拠点を展開し、3万人以上の従業員を擁しています。| マッキンゼー・アンド・カンパニーについて知る

BMW株式会社

BMWグループは、世界有数のプレミアム・カーおよび二輪車の開発・生産・販売を中心に、金融サービス、モビリティ・サービスを提供するドイツ企業です。世界15カ国に31の生産・組立拠点を持ち、12万人以上の従業員を擁しています。1981年に設立された日本支社は、金融サービスの提供およびBMWの輸入・販売を行う卸売業者としての役割を担っています。なお。2011年にトヨタ自動車と環境技術で提携合意し、年に共同開発車を発表した。| BMW株式会社について知る

トヨタ モーター ヨーロッパ株式会社

トヨタ自動車は1937年に設立された日本の多国籍企業であり、2020年の販売台数は世界最大、日本の上場企業時価総額1位、ハイブリッド電気自動車と水素燃料電池車の販売においても世界有数の企業です。トヨタ自動車は1963年に欧州で事業を開始しました。現在、トヨタモーターヨーロッパ株式会社は2万5000人以上の従業員を擁し、自動車の販売とマーケティングを行うとともに、欧州におけるトヨタ自動車の製造およびエンジニアリング事業を統括しています。| トヨタ モーター ヨーロッパ株式会社について知る

OECD経済協力開発機構(OECD)

経済協力開発機構(OECD)は、1961年に設立された政府間経済機関であり、政府、議会、国際機関、経営者、労働者、市民団体の代表者が協議することにより世界貿易を促進しています。ベストプラクティスおよび経験を共有し、国際基準を策定し、公共政策に関する助言を行うフォーラムを提供しています。| 経済協力開発機構について知る

ユミコア・ジャパン株式会社

ユミコアは、1989年ベルギーに設立されたクリーン・モビリティ素材とリサイクル分野のグローバルリーダーです。同社は、触媒制御、二次電池材料、リサイクル等のクリーン・テクノロジーを中心に研究開発および営業活動を行っています。世界各地50ヶ国の生産拠点と15ヶ国の研究開発拠点を持ち、1万人以上の従業員を擁しています。 | ユミコア・ジャパン株式会社について知る

双日株式会社

双日株式会社は、国内および海外における各種製品の売買、輸出入、製造・販売、サービスの提供、各種プロジェクトの企画・調整など、幅広い事業をグローバルに展開している総合商社です。また、様々な分野への投資、並びに金融活動も行っています。双日株式会社は、自動車やプラント、航空、医療インフラ、エネルギー、金属資源、化学品、食料、農林資源、消費財、工業団地などの各分野において多角的な事業を行っています。2003年に設立されて依頼、約2万人の従業員を擁して世界各地で事業を展開しています。 | 双日株式会社について知る

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