福島県とドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州(NRW州)は、2013年以来、再生可能エネルギーやエネルギーの効率利用など、地域のエネルギー移行に関するベストプラクティスを共有しています。2017年には、さらに協力関係を深め、専門家、地元企業、クラスター、研究機関を含めた産業的側面を強化するために、双方のエネルギー機関により連携覚書が締結され、企業間のマッチング支援、二国間のワーキンググループ、展示会への出展等を行っています。
エネルギー・エージェンシーNRWは、1990年以来、NRW州政府に代わって、エネルギー研究から、技術開発、実証実験、市場導入、コンサルタント業、職業訓練に至るまで、エネルギー分野における幅広い専門知識を有し、活動する組織です。現在は主にエネルギー効率化と環境保護に焦点を当てて活動しています。対象機関は、研究・科学施設、企業、地域社会、行政機関などです。
NRW州は、国内有数の産業中心地、エネルギー生産地、そして国内最大の人口1700万人を擁しており、ドイツの連邦州で初めて採択された、法的拘束力のある温室効果ガス削減目標は、同州の今後の大きな課題となっています。2050年に排出量80%以上の削減(1990年比)を目指しています。現在NRW州は主に風力発電・太陽光発電の普及に尽力しており、各発電量は6GW(2019年)に達しており、再生可能エネルギー分野では6,000人の雇用が創出されたとも発表しています(2018年)。
エネルギー・エージェンシーふくしまは、福島県が、再生可能エネルギー導入の推進母体として、2017年4月に設立した組織です。
2011年の福島第一原子力発電所事故で甚大な被害を受けた福島県では、原子力に依存しない持続可能な社会の実現に向け、再生可能エネルギーの導入拡大、再生可能エネルギー関連産業の育成・集積を強力に推し進めています。再生可能エネルギーを地域産業構築の鍵と位置づけており、2012年には、2030年までに温室効果ガスの排出量の45%以上削減(2013年比)、2040年頃を目途に県内のエネルギー需要量の100%以上を再生可能エネルギーで供給、という目標を設定しています。
これらの目標に向けて、エネルギー・エージェンシーふくしまは、共同研究開発等を行う「福島県再生可能エネルギー関連産業推進研究会」を運営し、地元企業の販路開拓支援、国内外の展示会開催・出展、海外企業との連携を促進しています。
NRW州と福島県のエネルギー転換に関する協力関係は、2013年の福島県知事のドイツ訪問を機に築かれました。東日本大震災および福島第一原発事故から約2年が過ぎた当時、福島県は県内のエネルギー需要に対応する中で、地域経済活性を促進する発電方法を模索していました。海外の事例に目を向けたところ、地域エネルギー転換計画に取り組む先進的な地方自治体、欧州のNRW州を見つけたのです。
日本とドイツ、両地域のパートナーシップを正式に確立するため、再生可能エネルギー、エネルギー効率利用、エネルギー貯蔵技術の分野を含めた連携覚書が2014年に締結されました。その後、関心が高まっていた水素技術に関しても、協力体制は築かれていきました。また、交流をより円滑にするため、福島に専門家組織を設立するというドイツ側の提案を受け、2017年、エネルギー・エージェンシーNRWをモデルとしたエネルギー・エージェンシーふくしまが発足しました。これにより交流は加速し、両地域のエネルギー機関の間で正式に協定が終結するに至りました。
両組織はこの協定を通じ、年数回の代表団派遣および地域展示会への出展支援を行うことで、エネルギー分野における地元企業間の交流を促進しています。また、二国間ワーキンググループを年一回開催し、企業、大学、自治体の専門家が、バイオマス(2018年)や水素利用(2019年)等の分野において情報を共有しています。これらの二国間ワーキンググループをきっかけに、福島大学とミュンスター大学は水素利用を研究する人材交流、エッセン市と郡山市は都市レベルでのエネルギー転換についての協力など、様々な二国間協定が結ばれています。
エネルギー・エージェンシーふくしまは、このような様々な事業を通じて企業間マッチングサービスを提供し、産業およびビジネスパートナーシップの機会を創出しています。弊センターの取材に対し、代表の服部靖弘氏は、バイオマス発電、エネルギー効率化、ヒートポンプなどの分野で、日独両組織の連携によって生まれた共同事業や開発プログラムの成功例をいくつか紹介してくださいました。例えば、バイオマスエネルギーを燃料とする熱電併給システムに特化したNRW州の企業は、福島県のパートナーと協力して、この技術を県内で広めています。
「エネルギー・エージェンシーふくしまを立ち上げた当時では誰も想像できなかった程に、年々私達の繋がりは深く、親密になっていきました」と、服部靖弘代表は語ります。両地域は、これまでの石炭や原子力発電のイメージから脱却し、大規模な水素製造プロジェクトの実証実験で知られるようになりました。
「福島県とNRW州の協力関係は、地域レベルでの二国間協力の最も成功した例の一つである」「大使館は、このパートナーシップを当初から支援しており、政府高官の福島訪問を手配してきました。2019年6月には、連邦経済エネルギー省の国務長官が郡山市の福島再生可能エネルギー研究所を訪問し、内堀福島県元知事との面会で、ドイツとの協力関係の重要性を強調されました。」と、在日ドイツ大使館経済部上級専門官の大石式部氏は強調します。
そして2021年3月には、強固な協力関係を更に深めていくために、エネルギー・エージェンシーNRWとエネルギー・エージェンシーふくしまは連携覚書を更新するに至りました。
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