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 ヴルカヌス・イン・ヨーロッパプログラム
 日本人学生対象

 

「ヴルカヌス・イン・ヨーロッパ2007に参加して」

草野 真一郎
ヴルカヌス・イン・ヨーロッパ 2007年度派遣
語学研修:スペイン語(スペイン)
企業研修:IDIADA Automotive Technology社(スペイン)
応募当時 北海道大学工学部機械工学科 在籍

1. はじめに

私はヴルカヌス・プログラムに参加して、心の底から良かったと思っています。この一年を通して本当にかけがえのないものを得ることができました。そして、自分自身について知ることができました。自分がどういう人間で、今現在どういうことに興味があり、将来どういうことをしたいのか、また、自分の中でどういう点を改善していかなければならないのか、とても悩み、深く考えることができました。そして、そのきっかけを与えてくれたのが、このプログラムの同期であり、職場の同僚であり、現地で知り合った人達でした。更には、プログラムが終わったとき、私は少しだけ自分に自信を持つことができるようになりました。本稿では、私がこの一年で感じたことを、ありのままに伝えたいと思います。

2. 応募から研修企業決定まで

私は将来、世界を舞台にエンジニアとして仕事をする上で、その足がかりを作りたいと思ったこと、また、大学で学んだ機械工学の知識が実社会ではどのように応用され、製品が生み出されるのか知ってみたいという理由から、ヴルカヌス・プログラムに応募しました。面接では上記の志望理由に加え、どんな状況でも自分は絶対にやっていけるという熱意をアピールしました。

3. バルセロナ(スペイン)

バルセロナに到着してまず驚いたことは、現地ではほとんど英語が通じないということです。また、スペインでは正式な公用語としてスペイン語が話されていますが、地域によってカタルーニャ語やガリシア語、バスク語が公用語として併用されています。バルセロナではカタルーニャ語が公用語として話されており、標準スペイン語はみんなしゃべれるけれど使わないよ、といった感じです。同じ国なのに、彼らはそれぞれ自分たちの文化に誇りを持ち、それを伝統的に守り続けているのです。とても素敵なことだとは思いますが、職場でも同僚同士の会話はすべてカタルーニャ語だったので、標準スペイン語を勉強していた私には一切理解できませんでした。
ところで、企業研修中にある同僚が言っていたスペイン人の仕事に対する考え方を紹介します。「僕たちは生きるために働くんだ。働くために生きているのではない。」彼らは夕方5時半になると一斉に退社します。その分、家族や恋人との時間をとても大切にしている。そんな彼らの働き方や考え方を、企業研修を通して体感することができました。彼らにとって、仕事は生活を楽しむための一部なんです。

4. ホストファミリー

語学研修中にお世話になったホストファミリーは、おばあちゃんとおじいちゃん、それにパスカルという犬の三人家族でした。そのおばあちゃんは顔がとても怖く、声も大きいので私は当初、恐怖を感じていました。また、シャワーは5分以内、部屋の電気は12時以降消すようにと注意され、本当に最初の2週間はつらかったです。それでも、毎日夕食時になると傍らで語学学校のことや日本にいる家族のことを色々と聞いてくれたり、旅行の度にサンドイッチを作ってくれたりしたことが本当に嬉しくて、とても感謝しています。今思えば、あの時におばあちゃんやおじいちゃんと会話をしようとスペイン語を必死に勉強したことが後々の会話能力アップに繋がったのだと思います。
一方で企業研修中は、ポーランド人の家族とフラットシェアをしました。その頃には、スペイン語で日常会話程度は出来るようになっており、ライフスタイルの違いなどから彼らと口論になったこともありました。

5. 語学学校

スペイン派遣は私を含めて3人で、最初の2ヶ月がスペイン語、残りの2ヶ月が英語という授業内容でした。前半のスペイン語のクラスでは、私たち日本人3人だけの超基礎クラスからスタートすることになりました。最初は先生の言っていることが全く何も理解できませんでしたが、日が経つにつれ自分が成長しているのを実感でき、毎日の授業が本当に楽しみでした。また、クラスのレベルが上がり他の国の人達と交流することで、自分の価値観はとても広がったように思います。逆に、後半の英語に関しては、ある程度知識があることと、私たち日本人3 人だけのクラスということもあり、私の場合はスペイン語ほど身が入りませんでした。週末には、ヴルカヌスの同期に会いにヨーロッパ各国を飛び回り、とても良い刺激を受けました。
この4ヶ月を通して、ビザの更新手続きや8月からの住居探しなど、すべてスペイン語で行わなければならずとても苦労しましたが、必死に伝えれば意外と何とかなるものだなと強く実感しました。

語学学校の先生・クラスメートたちと

6. 企業研修

8月からの企業研修では、IDIADA Automotive Technology社という自動車全般における試験や認証を行っている企業で研修を行いました。私はIDIADA社の耐久部門で働き、ある日本車メーカーの車両開発に携わりました。実際に仕事をしてみると、大学で学んだ機械工学全般の知識を生かせることはほとんどなく、むしろ自動車の知識があれば誰でも出来るようなジェネラルな仕事のように感じました。その中で、いかに自主的に動き仕事をもらうかということが当時の私の課題であり、とても苦労した点です。国から奨学金をもらって来ているのだから、少しでも会社に貢献したいという気持ちと、自分の出来る範囲のことが少なく会社になかなか貢献できないという葛藤が本当に私を悩ませました。ただ、いつも積極的に自分から発信することで、大きなプロジェクトを任せてもらうことが出来ましたし、そこで日本語を武器にチームに貢献でき、とてもやりがいを感じました。

プログラム修了式で研修企業の上司と

7. 帰国後

私は学部を卒業してすぐ、プログラムに参加しました。そのため、日本での就職活動まで時間があり、自分の強みや弱みを整理して採用面接に備えることが出来ました。ただ、帰国してすぐ就職活動をしなければならない場合、現地でその準備を行わなければならず、大変なのも事実です。同期の中には、日本人海外留学生のための就職フェアであるロンドンやボストンキャリアフォーラムに参加したり、研修先の企業からジョブオファーをもらって日本法人で働いたり、現地で仕事を探したりと、本当に人それぞれです。私たちスペイン組3人も、 IDIADA社からジョブオファーをもらい、大学院修了後スペインで働けるチャンスを得ました。私は、悩んだ挙句に断ってしまいましたが、社会に出てからも、このスペインでの経験が、今後の私の選択に影響を与え続けると思います。

8. 最後に

私はヴルカヌス・プログラムに参加して、心の底から良かったと思っています。それは、私がこのプログラムに参加しなければ、決して得ることが出来なかったものがあるからです。
1つ目は、この一年間、ヨーロッパで苦楽を共にし、同じハードルを乗り越えてきた同期との出会い、語学学校で出会ったある日本人との出会い、そして社会のことを何も知らなかった私に、働くことの意味を教えてくださったIDIADA日本支社の社員の方々との出会いです。特に、理系であり海外で働くことに興味を持った同期と出会えたことで、私の視野はとても広がりました。そして仕事でつらくなった時、何度も励まされ、又彼らの頑張りに幾度となく奮い立たされました。これから社会に出ても生涯にわたって切磋琢磨し会える仲間を持つことが出来たことは、私の財産です。
2つ目は、海外でもやっていけるという自信を持つことが出来たことです。私にとってはるか遠い存在だった海外が、このプログラムを終えてぐっと近づきました。また自分自身にも、少しだけれど自信を持つことが出来るようになりました。自分の意見を人に伝えることが苦手で、何も出来なかった自分が少しだけ変わることが出来たように思います。
3つ目は、自分の弱点が見えてきたことです。それを自覚しなければ、海外にいようが日本にいようが、なりたい自分にはなれないし、やりたい仕事も出来ないと思っています。それが何なのか、よく把握することが出来て本当に良かったと思います。
最後になりますが、私はこのプログラムに興味をお持ちの読者の方々に、このプログラムに参加して一年間ヨーロッパで過ごすのと、大学をそのまま休学せずに日本で一年間過ごすのと、どちらが良いかを真剣に考えていただきたいと思います。その上で納得されてこのプログラムに参加したいと思うのであれば、その時は何かしら目的を見つけて全力でぶつかってください。目的がはっきりしていて、かつ前向きであればあるほど、より多くのことを吸収できると思いますし、必ず道は開けると思います。以上が、私がこのプログラムを通して得たもの、学んだことです。出国前、私は海外に出たら何か変われるんじゃないかと、心のどこかで甘い考えを持っていました。けれど、根本的な性格は何も変わることはありませんでした。ただ、自分の行動次第でどうにでもなるということを、この一年ほど身をもって体験できたことはありません。
海外に対して不安に思っている一人でも多くの読者の方が、前に一歩を踏み出し、異文化で仕事をすることの醍醐味を感じてもらえればと思います。

ヴルカヌスの同期たちと(ブリュッセルにて)

(2009年執筆)

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