ヴルカヌス・イン・ヨーロッパプログラム
 日本人学生対象
本田 志穂
ヴルカヌス・イン・ヨーロッパ2019年派遣
語学研修:ドイツ語 (ベルリン, ドイツ)
企業研修:Asahi Kasei Europe GmbH(ドルマーゲン, ドイツ)
はじめに
 日本での就職だけでなく、ドイツの発達した自動車産業で将来働くという選択肢が増えたら、という思いからドイツでの企業インターンシップを志望しました。ドイツに住んで働くには、英語だけでなくドイツ語の語学能力も必要です。本プログラムは15週間の語学研修も含まれるため、自身の目標を達成するには最適な留学プログラムでした。
 語学留学や研究を通した国内外でのインターンシップにはいくつか参加した経験がありましたが、どれも1か月程度だったため、短期間での人間関係の構築や問題処理能力習得には限界があると感じていました。1年の海外インターンシップで、長期的な信頼関係を築くことや責任をもって最後まで仕事に取り組む精神を鍛えることが目標でした。
 また、ドイツの自動車文化にどっぷりつかるためにも、レースやモーターショー、自動車博物館などの場所や訪問日程を事前に調べて計画していました。

Wolfsburgのアウトシュタット(VW)
 

ニュルブルクリンク24時間耐久レース 会場
 
語学研修期間
 初めの頃は、もっとホストファミリーとコミュニケーションを取りたくて、授業後すぐ部屋に籠って一生懸命文法の復習をしました。週末も含めほぼ毎日ホストファミリーとルームメイト揃って夕飯を食べるのが楽しみでした。いつも、今日はどんな一日だった?とホストファザーが聞くので、それに答えるためにカンペを作ってなんとかドイツ語で会話しました。最初はハサミや掃除機を借りるのにも、あっているのか分からないドイツ語で尋ねるのに勇気がいりました。
 ベルリンでは多くの時間をホストマザーと過ごしました。最初のルームメイトがフランスに帰国した後、2週間ほどホームステイの学生は私一人でした。その期間一緒に夕飯の準備を手伝ってよいか聞いたら、喜んで承諾してくれました。平日の夕方は一緒にスーパーへ買い物に行き、キッチンで2人音楽を聴きながら2時間近くかけて夕飯やデザートの調理を楽しみました。お土産で持参したお好み焼きなどの日本食も何度か自分で料理してふるまいました。ランニングが共通の趣味だったため、日曜の朝は一緒に10 kmほど走っていました。5月には、娘さんも一緒に参加するウィメンズマラソンに誘ってもらい、3人でブランデンブルク門を見ながらTiergartenを走ったのは忘れられない思い出です。帰国前にベルリンを再度訪れた時も、温かく出迎えてくれました。言語がおぼつかなくても、会話が得意でなくても、人と人との関係は築けるのだと実感しました。
 VISA申請はドイツ入国後に行いました。語学学校のサポートなどは特になかったため、ドイツ語に不安を抱えたまま一人で外国人局に行くのはとても大変でした。外国人局でインターンシップのことや申請のために揃えた書類について説明するために、事前にドイツ語で文章を作りホストマザーに添削してもらいました。
 企業研修期間中に住む部屋探しは企業訪問の日程に合わせて見学できなかったため、6月の土日に再度はるばる訪問しました。10件ほど見学しましたが、通勤のしやすさ・住む町やルームメイトの雰囲気・大家さんと関われる頻度(別の都市に住んでいる、建物の別のフロアに住んでいる)など、サイトの情報や写真以上に重要なことを自分の目で見て確認することができました。
 語学学校にも慣れてきた頃、クラスメイトがお勧めしてくれたTandemという言語交換アプリでネイティブの人たちと話す機会が格段に増えました。直接会話すると聞き取れなかったり、何を話したらよいか分からず緊張したりするので、文章で自分のペースに合わせてやり取りできるのは自分の性格的に最適な学習法でした。語学学校のクラスメイトを交えてTandemの友達と直接会うこともありました。

ホストファミリーの家族とルームメイト
企業研修期間
 旭化成ヨーロッパGmbH R&Dセンターはドルマーゲンのケミパークという化学工場の中に位置します。ドルマーゲンはデュッセルドルフとケルンの間にある街です。この工場専用の駅から一駅の町にシェアハウスのルームメイト4人と一緒に住んでいました。一軒家の各部屋を個人で、リビングや庭、キッチン等を共有で使用していました。オーナーが家の一角を個人事務所として使用していましたが、年齢が近いこともありみんな友達のように楽しく過ごしていました。夏にはまだ空き部屋があり、Airbnbの利用者も入れ替わりで来るようなオープンなシェアハウスでした。入居してから2日目の夜、オーナーの誕生日パーティーでたくさんの友達が集まり、ドイツ語や英語、フランス語が飛び交っていました。研修中に住居を変えることはよくあることだと先輩方から聞いて心配していましたが、ここなら絶対に大丈夫だとワクワクしたのを覚えています。
 会社の主な事業はエンジニアリングプラスチック(EP)、ラバー、バッテリー電解液、コーティングです。私はEP部門のテクニカルトレイニーとして研究開発に取り組みました。R&Dセンター内の施設は、試験片を作製するためにコンパウンド、射出成型を行うテクニカルセンターと、作製した試験片の機械的・熱的特性を評価するためのラボの二つに大きく分かれます。強化樹脂を試験用途に合わせて様々な形に成型し、それぞれ測定評価しました。繊維強化樹脂の機械的特性は水分率や外的温度によっても影響するため、環境や条件を変えて処理したものの特性評価も行いました。
 ヨーロッパでの生活を通して、教育や労働環境が日本とは大きく異なることを実感しました。例えば、ドイツやフランスでは学生の時から数か月単位の企業インターンシップに参加し、キャリア形成をします。自身のスキルに見合う職種を探して企業の空いているポストに応募するため、大学での専攻は就職に直結します。また、日本以上に「博士」が高く評価されます。産休・育休も比較的取りやすい印象で、平日昼間の公園には子連れの父親を多く見かけました。
 研修期間中、ヴルカヌスの先輩方やドイツで働く日本人の方々に直接会って話を聞く機会が何度かありました。他にも工学専攻の学生や会社の同僚など多くのドイツ人からドイツでの就職活動やキャリア形成・ライフプラン、日本とヨーロッパの文化の違い等を学びました。また、同僚や大学の教授を通じて4つの研究所を訪問し、興味のある分野の研究動向や博士課程について詳しく知ることができました。ラボツアーを通して研究室の雰囲気や設備を直接見られるのも非常に良い経験でした。
 現地で多くの研究者と出会いましたが、ドイツでPostdocやPh.D.をする外国人は、在籍する研究室と先方の教授とで繋がりがあるか、社会人を経験してから応募している場合が多いように感じました。帰国後の研究と繋がりを作るためにも、ヨーロッパ滞在中に興味のある研究室は積極的に見学しに行くと良いと思います。

シェアハウス
最後に
 この一年間は新しいことの連続で刺激的な毎日、というわけではなく平凡な日々や辛い時期ももちろんありました。それでも私は、言葉も違う見知らぬ土地で孤独を感じる、ということは一度もありませんでした。できる限り問題は自分自身で対処できるよう自立した人間になりたいと強がっていましたが、本当に困ったときは素直に助けを求め、分からないことは分からないとハッキリ言う大切さを知りました。必ず誰かは力になって助けてくれました。自分は独りではないのだ、と思ったら失敗を恐れず積極的に挑戦できました。コミュニケーションが上手くいかなかったり、信頼を損ねるようなことをしてしまったりすることもありました。それでも長期的に見て最後まで投げだしたりせず、失敗から学んで二度と同じことを繰り返さないよう挽回することもできました。こうして、私はヨーロッパでさらに課題発見、自己研鑽し成長することができました。
 大学の授業や研究を離れて4か月間みっちり語学に集中できる機会はこの先エンジニアとして就職した後も二度とないと思います。この1年で得られたスキルや人との繋がりはこの先も必ず大切にしていきたいです。帰国後も意識的にドイツ語で関わり、言語を使う環境を維持しています。
 最後になりますが、1年間の研修にあたってお世話になったホストファミリー、研修中温かく接してくださった旭化成ヨーロッパの皆さんに心から感謝いたします。そして、プログラム参加中現地や日本でもサポートしていただいた日欧産業協力センターのスタッフの方々、大変お世話になりました。本当にありがとうございました。
(2020年 執筆)

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