EUのさらなる市場統合へ
「One Europe, One Market」アジェンダが拓く新たな投資機会

「One Europe, One Market」ロードマップの署名式に出席するロベルタ・メツォラ欧州議会議長、ニコス・フリストドゥリディス・キプロス大統領、ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長 (Photo credit: European Union, 2026 / EC – Audiovisual Service / Dati Bendo)
要点
・EUは、単一市場の統合と規制・手続の簡素化を通じて、企業が域内で事業展開しやすい環境整備を進めています。
・2026年4月に公表された「One Europe, One Market」ロードマップでは、規制、単一市場、通商、エネルギー、デジタル・AIを重点分野として、2027年末までの実行計画が示されています。
・日本企業にとっては、EUをより一体的な投資先として捉え、拠点設立、製品展開、サービス提供を検討しやすくなる可能性があります。
はじめに
EUは、日本企業を含む域外企業にとっても、より事業展開しやすい市場へと変わろうとしています。その中心となるのが、「One Europe, One Market(ひとつの欧州、ひとつの市場)」アジェンダです。
このアジェンダは、EU単一市場をさらに統合し、加盟国ごとに異なる規制や手続を簡素化することで、企業がEU全体を一つの市場として活用しやすくすることを目指しています。2026年3月の欧州理事会結論(Conclusion)では、本アジェンダを可能な限り2026年中に実施し、遅くとも2027年末までに完了する方針が示されました。これを受け、同年4月には、EUの主要機関である欧州委員会、EU理事会、欧州議会が共同で「One Europe, One Market」ロードマップを公表しました。同ロードマップでは、規制の簡素化、単一市場のさらなる統合、通商、エネルギー、デジタル・AIといった分野について、具体的な実行計画が整理されています。
本ページでは、このアジェンダの概要を整理し、日本企業によるEU域内での事業展開や投資検討に関する主なポイントを紹介します。
背景と目的
EUが「One Europe, One Market」アジェンダを推進する背景には、地政学的競争や技術革新、経済の不確実性が高まる中で、安全保障・戦略的自律性を支える競争力ある経済基盤を強化する必要性があります。そのためEUは、より強固で公正かつ統合された単一市場、パートナーシップの多様化と戦略的依存の低減を図る通商政策、そして欧州の生産・イノベーション・競争能力を強化する産業政策を、相互に補完し合う三つの柱として位置づけています。
これらの方針は2026年3月のEU加盟国首脳、欧州理事会常任議長、欧州委員会委員長で構成される欧州理事会での結論で確認され、同年4月には、欧州議会、EU理事会、欧州委員会の3機関が共同で策定した「One Europe, One Market」ロードマップとして具体化されました。同ロードマップは、規制の簡素化、単一市場のさらなる統合、通商の強化、エネルギー価格の低減と脱炭素化、デジタル・AI変革の推進を柱として、2026年から2027年末にかけてEUが進めるべき主要な政策分野を整理しています。
「One Europe, One Market」アジェンダは何を実現するのか
「One Europe, One Market」アジェンダの中心にあるのは、EUの単一市場をより一体的で、企業にとって使いやすい市場にすることです。EUは、物・人・サービス・資本が加盟国間で自由に移動できる単一市場の「4つの自由」をさらに深化・統合し、企業が域内全体でより円滑に事業を展開・拡大できる市場環境の整備を目指しています。
EU域内での事業展開をより円滑に
この目的のもと、欧州理事会の結論では、加盟国ごとに異なる規制や手続をできる限り簡素化・統一し、企業がEU全体を一つの市場として活用しやすくするための措置が示されています。具体的には、法人設立、ガバナンス、一部の倒産手続き、株式オプションの課税タイミングなどの共通化を目指す企業規制枠組みである「28th regime」、越境サービス提供に関する簡素・統一的な電子申告制度、専門資格の相互承認の改善、企業が行政機関に一度提出した情報を別の手続で再提出しなくても済むようにする「ワンス・オンリー原則」および欧州ビジネスウォレットを通じた行政手続のデジタル化、加盟国ごとに異なる製品ラベリング・包装要件の是正などが含まれます。
これらは、新たな負担を追加することではなく、企業が加盟国ごとに異なる制度へ個別に対応する必要を減らし、域内での事業展開やスケールアップを容易にするための取り組みです。日本企業にとっても、EUを個別の国市場の集合ではなく、より一体的な市場として捉えた拠点展開、サービス提供、製品展開を検討しやすくなる可能性があります。
規則を簡素化し、行政負担を減らす
EUは、単一市場の統合とあわせて、規則の簡素化と行政負担の削減を重要な目的として掲げています。具体的には、オムニバス・パッケージを通じて既存のEU法から生じる負担を軽減するとともに、計画・許認可手続の迅速化を進める方針です。さらに、今後の新しいEU政策についても、設計段階からの簡素性を重視し、高品質な影響評価を行った上で、規制・行政・コンプライアンスコストを抑えることが求められています。加盟国に対しても、EUルールを国内実施する際に、過剰な上乗せ規制を避けるよう求めています。
こうした規制環境の見直しは、エネルギー分野にも及んでいます。3月の欧州理事会の結論では、排出量取引制度(ETS)の見直しについて、炭素価格の変動を抑え、電力価格や関連するサプライチェーンコスト、事業活動の移転への影響を緩和する観点から言及しています。
このような取り組みは、EU域内における事業環境の改善につながるものです。規制水準を維持しながら、加盟国ごとに異なる手続や要件を整理・簡素化することで、企業はEU全体をより一体的な市場として活用しやすくなります。日本企業にとっても、拠点設立、製品展開、サービス提供、投資判断における実務上の負担軽減が期待されます。
実行に向けたロードマップ
2026年4月に公表された「One Europe, One Market」ロードマップは、以上のようなEUの政策方針を企業にとってより使いやすい制度環境へ落とし込むための実行計画です。同ロードマップでは、2026年から遅くとも2027年末までに進展を図るべき分野として、以下の5つの戦略的柱が示されています。
・規制の簡素化(simplifying rules)
・より統合された単一市場(a more integrated Single Market, including by removing the ten most harmful barriers)
・強力な通商の推進(championing strong trade)
・エネルギー価格の低減と脱炭素化(reducing energy prices and decarbonising)
・デジタルおよびAI変革の推進(driving the digital and AI transformation)
これらの柱ごとに主要な立法・政策イニシアティブと合意目標時期がロードマップ内では示されており、企業にとっては、どの分野で制度の簡素化や市場統合が進むのかを見通しやすくなります。また、欧州委員会、欧州議会、EU理事会、加盟国の役割分担が明確化され、四半期ごとの進捗確認も行われます。これにより、日本企業にとっても、EUでの拠点設立、製品展開、サービス提供、投資判断のタイミングを検討する上で、ロードマップは重要な参考材料となり得ます。


関連リンク:
・One Europe, One Market’ roadmap, 24 April 2026
・European Council conclusions, 19 March 2026
・Boosting EU competitiveness, the way forward (background information)
・What the EU is doing to boost its competitiveness
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