本ページでは、日本企業・投資家がEUでの事業展開や投資を検討する際に理解しておくべき、主要なEUの規制・法制度のポイントを紹介します。
EUでは人権・環境・デジタル分野を中心に企業責任を高める規制が進んでおり、日本企業にとって欧州基準への対応はますます重要になっています。これらの動向を正確に把握し、サプライチェーン全体でコンプライアンスを確保することは、リスク回避だけでなく、企業の信頼性や国際競争力の向上にもつながります。とくに、EU要件に早期に適応しておくことで、他地域の規制にも柔軟に対応しやすくなり、結果としてグローバル展開をよりスムーズに進められるという大きなメリットがあります。
EUにおける企業サステナビリティ規制の全体像
EUでは、企業のサステナビリティ対応を強化するため、性格の異なる2つの主要制度が導入されています。
・CSRD(企業持続可能性報告指令):
「何を開示するか」 を定める制度
・CSDDD(企業持続可能性デューデリジェンス指令):
「何を実際に行うべきか」 を定める制度
両制度は相互に補完的な関係にあり、EUのサステナビリティ政策の中核を成しています。
CSRD:企業のサステナビリティ情報開示を義務化
CSRD(Directive (EU) 2022/2464)は、2023年1月に発効した指令で、大企業および上場企業に対し、社会・環境分野に関する情報開示を義務付けています。
主なポイント
対象企業は、
・自社が直面する社会・環境リスク
・事業活動が人権や環境に与える影響を定期的に開示
・欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)**に基づく報告が必要
目的は、投資家・市民社会・消費者といったステークホルダーが、企業のサステナビリティへの取り組みを比較・評価可能にすることです。CSRDは、欧州グリーン・ディールの一環として、透明性を通じた企業行動の変化を促す制度と位置づけられます。
CSDDD:人権・環境に関する行動責任を明確化
CSDDD(Directive (EU) 2024/1760)は、2024年7月に発効した指令で、企業に対し人権・環境デューデリジェンスの実施義務を課す制度です。
主なポイント
・対象:EU域内外の一定規模以上の大企業(約7,000社が対象見込み)
・対象範囲:自社、子会社、取引先を含むグローバル・バリューチェーン全体
企業に求められる対応:
・人権侵害・環境破壊の特定
・予防・軽減・是正措置の実施
・デューデリジェンス体制の構築・運用
・パリ協定に整合した気候移行計画の策定・実施(ベストエフォート義務)
CSDDDは、単なる情報開示にとどまらず、企業行動そのものの変革を求める制度です。
日本企業への影響
CSRDおよびCSDDDは、EU域内企業に限定される制度ではありません。
・EUで事業を行う日本企業は、直接の適用対象となる可能性
・EU企業のサプライチェーンに関与する場合、人権・環境デューデリジェンス対応、情報提供要請を求められる可能性が高い
・特にCSDDDは、一定規模以上のEU域外企業を直接対象とし得る点で影響が大きい
両制度は、日本企業にとっても、対EUビジネス戦略やサステナビリティ経営を再設計する上での重要な制度的枠組みとなっています。
最新動向:規制簡素化(オムニバス提案)と適用時期の見直し
EUでは、競争力強化を目的として、2025年以降、規制負担を軽減する「オムニバス簡素化パッケージ」が進められています。
・2025年12月9日、欧州議会・加盟国間で政治合意
・CSRD・CSDDDについて:適用対象の縮小、義務内容の簡素化が盛り込まれる
適用開始時期の変更(2025年4月決定)
・CSDDD: EU域外企業への適用:2028年7月以降
・CSRD: 域外企業向けの適用時期は変更なし。2028年1月以降に開始する会計年度から適用、2029年に初回報告
炭素国境調整メカニズム(CBAM)とは
炭素国境調整メカニズム(CBAM:Carbon Border Adjustment Mechanism)は、EU域内と域外の製品間で炭素コストの扱いに差が生じないよう、EU域外から輸入される特定製品に対し、生産時の炭素排出量を考慮した調整を行うEUの制度です。
CBAMはEUの制度ですが、EU向けに製品を供給する日本企業や、EU企業のサプライチェーンに関与する企業にも影響が及びます。日本企業には、製品や原材料に含まれる温室効果ガス排出量の把握・算定、ならびにその情報提供が求められます。2026年以降は、排出量に応じたCBAM証書の購入が必要となり、コストや価格交渉、調達先の選定に影響を与えます。今後の対象範囲拡大も見据え、排出量の可視化や脱炭素対応力が、EU市場で事業を継続・拡大するための重要な条件となりつつあります。
制度の目的
・EU域内産業と輸入品の間で炭素コストの公平性を確保
・炭素リーケージ(高炭素産業の域外移転)を防止
・EU域外におけるよりクリーンな産業生産を促進
CBAMは、EU排出量取引制度(EU ETS)における無償排出枠の段階的廃止と整合的に設計されており、EUの脱炭素政策を構成する重要な制度の一つと位置づけられています。
CBAMの適用スケジュール
CBAMは、段階的導入が採用されており、2023年10月1日から移行期間として適用が開始されました。
・EU輸入者に課される義務:対象製品に関する内包排出量の報告
・この期間中は:CBAM証書の購入・提出義務はなし
位置づけ:本格適用に向けた試行・学習期間・排出量データの収集・算定方法の精緻化
EU内外の企業および関係当局が、制度運用に慣れるための準備期間とされています。
本格適用(2026年以降)
CBAMの本格適用は、2026年1月1日に開始されます。
本格適用後の主な義務
・対象製品を輸入するEU輸入者、または間接通関代理人は、
「認可CBAM申告者(authorised CBAM declarant)」として登録が必要
・輸入品に内包される排出量に相当するCBAM証書の購入および年次提出が義務化
CBAM証書の価格設定
・基準:EU ETS排出枠のオークション価格
・価格算定方法:
2026年:四半期平均価格
2027年以降:週次平均価格
CBAMの対象品目(現行)
CBAMは当初、炭素リーケージのリスクが特に高い分野を中心に適用されます。
現行の対象分野: セメント・鉄鋼・アルミニウム・肥料・電力・水素
これらの製品に加え、一部の前駆物質も対象に含まれます。
対象範囲拡大の動き(改正案)
2025年12月に欧州委員会が発表した改正案では、CBAM対象製品を原材料として使用する川下製品を、新たに制度対象に含める方針が示されています。
追加対象の特徴
・主に産業用サプライチェーンに位置づけられる製品
・鉄鋼・アルミニウムを基盤とする加工度の高い製品
→重機部品を固定する金属製金具・産業用放熱器・鋳造機械
また、産業用途に限らず、一部の家庭用製品についても、制度対象に含めることが提案されています。
包装・包装廃棄物規制(PPWR)とは
EUでは、欧州市場に流通するすべての包装および包装廃棄物について、材料や用途(商業用、家庭用、産業用など)を問わず、共通の規制が適用されています。この分野の規制は、従来の包装・包装廃棄物指令(PPWD)に代わり、包装・包装廃棄物規則(PPWR:Regulation (EU) 2025/40)として整理・強化されました。PPWRは2025年2月11日に発効しており、18か月後から本格適用される予定です。
規制の目的
PPWRは、包装廃棄物の発生を抑制し、資源利用の効率化を通じて、循環型で持続可能かつ競争力のある経済への移行を促進することを目的としています。
主な目標は以下のとおりです。
・2030年までに、EU市場のすべての包装を経済的にリサイクル可能にする
・包装における再生プラスチックの使用を安全に拡大
・バージン原材料の使用を削減し、2050年までの気候中立に貢献
規制の主な内容
PPWRは、製品設計から廃棄処理まで、包装のライフサイクル全体を対象とし、主な措置には以下が含まれます。
・個包装の調味料・ソースなど、特定の使い捨てプラスチック包装の制限
・テイクアウト事業者に対し、利用者が自前容器を持ち込める選択肢を無償で提供する義務
・有害物質の使用制限(一定の閾値超過時)
・すべての包装に対し、製造方法・材料構成・再使用性・回収可能性に関する必須要件を適用
なお、PPWRの適用開始後、従来のPPWDは廃止されますが、一部の規定は一定期間引き続き適用されます。
PPWRは再利用目標を一律に課す制度ではなく、製品特性を踏まえた例外も設けていますその一つとして、ブドウ以外の果物・野菜由来のワイン類似製品や各種発酵飲料が挙げられており、日本酒はこれらの免除対象に該当します。
EU AI法(European Artificial Intelligence Act)とは
EUのAI法(Regulation (EU) 2024/1689)は、AIを安全かつ信頼性の高い形で利用するためのEU全域で統一された規則です。2024年8月に発効しました。本法では、推論能力や自律性といった要素を含むAIの定義が明確に規定され、用途やリスクの度合いに応じて義務の重さが変わる仕組みが採用されています。
なお、
・科学研究目的のAI
・軍事・防衛関連のAI
は適用除外とされ、GDPRなど既存のEU法は引き続き並行適用されます。
規制対象と責任主体
AI法では、以下の双方が規制対象となります。
・AIシステム
・汎用目的AI(GPAI:General Purpose AI)モデル
特にAIシステムについては、リスクに応じた4段階の分類が導入されています。
また、AIのライフサイクルに関わる主体(提供者、利用者〈ディプロイヤー〉、輸入業者、販売業者など)の立場に応じて、適用される義務が異なる設計となっています。
AIシステムの4つのリスクカテゴリー
① 最小リスク(Minimal Risk)
・スパムフィルターなどの一般的なAI
・特段の義務なし
② 透明性リスク(Specific Transparency Risk)
・チャットボット、AI生成コンテンツなど
・AIであることの明示、生成物へのラベル付けが必要
③ 高リスク(High-Risk)
・医療AI、採用AI、重要インフラ関連AIなど
・リスク管理、高品質データ、人による監督、技術文書整備等の厳格な要件
④ 許容されないリスク(Unacceptable Risk)
・社会スコアリングなど、基本的権利を侵害するAI
・使用が全面的に禁止
段階的な適用スケジュール
AI法は一括適用ではなく、内容ごとに段階的に適用されます。
2025年2月〜
・第1〜5条が適用開始
・AIの定義、AIリテラシー、「許容されないリスク」に該当する利用ケースなど
2025年8月〜
最新動向:高リスクAI規定の適用延期案
欧州委員会は2025年11月19日、高リスクAIに関する条項の適用開始を後ろ倒しする意向を示しました。
・最長で16カ月延期
・2027年12月まで遅れる可能性
背景には、
・標準化や監督体制の準備遅れ
・企業・行政双方の過度な負担
・特にSME・SMCにおける実務的課題があります。
デジタル・オムニバス改正案(簡素化措置)
同時に、規制負担を軽減しつつイノベーションを促進するため、AI法の一部簡素化を目的とした「オムニバス法案」が発表されました。
主な内容
① SME向け簡素化措置の拡大
・中小企業(SME)向け措置を中堅企業(SMC)にも拡大
・技術文書要件の緩和
・年間約2億2,500万ユーロのコスト削減効果を見込む
② 実証実験(サンドボックス)の拡充
・本番に近い環境でAIを安全に試験可能
・2028年にEU全体で利用可能な実証枠を創設
・自動車など主要産業での実環境テストを拡大
③ AIオフィスの権限強化
・GPAIモデルを基盤とするAIシステムの監督を欧州委員会内のAIオフィスに一本化
・監督の一貫性・明確性を強化
今後の見通し
AI法の適用時期見直しおよびオムニバス改正案は、今後、EU加盟国(閣僚理事会)および欧州議会での審議を経て、正式に採択される見通しです。
日本企業への影響
・EU域外企業も対象になり得る: AIの「出力」がEUで利用される場合、日本企業も適用対象となる可能性があります。
・AIの定義が広い: 推論・自律的処理を行うシステムは幅広くAIに該当し、日本企業の製品・サービスも対象となり得ます。
・高リスクAIには追加義務: 特定のEU法に該当する製品にAIを組み込む場合、高リスクAIとして厳格な要件への対応が求められます。
EUレベルでの投資審査制度(FDIスクリーニング)とは
EUの投資審査制度(Regulation (EU) 2019/452)は、EU域内の安全保障および公共秩序を保護することを目的として、外国からの直接投資(FDI)に関する情報をEU加盟国と 欧州委員会が共有・協力する枠組みとして導入されました。本制度は2019年に決定され、2020年10月から完全に運用されています。
制度の主な特徴
本制度は、EUが投資を一律に審査する制度ではなく、加盟国間および欧州委員会による協力・情報共有メカニズムとして設計されています。
・加盟国と欧州委員会が、投資案件に関する情報を相互に共有
・投資がEU全体の安全保障や戦略的プロジェクトに影響を及ぼす場合、欧州委員会が意見(non-binding opinion)を提出可能
・投資審査に関する国際的な経験・ベストプラクティスの共有を促進
加盟国の国内投資審査制度に求められる要件
国内レベルで投資審査制度を持つ加盟国には、以下の原則が求められています。
・透明性
・非差別
・機密情報の保護
・不服申立ての可能性
・迂回防止措置
・迅速な審査手続き
これにより、投資家にとっての予見可能性と、EU全体としての安全保障上の整合性の両立が図られています。
最新動向:制度強化に向けた改正案(2024年)と主なポイント
2024年1月、欧州委員会は本制度の強化を目的とした改正案を提示しました。現在、加盟国間で協議が進められています。
・すべての加盟国に投資審査制度の整備を義務付け
・審査が必須となる最低限のセクターをEU全体で共通化
・最終的な実質的支配者が非EUの個人・企業であるEU投資家による投資も審査対象に含める
これらの措置は、欧州の産業基盤と経済成長を立て直す政策パッケージの一環として発表される予定です。
英国のフィナンシャル・タイムズ紙の取材に対し、同改正案に関してセジュルネ欧州委員会上級副委員長(繁栄・産業戦略担当)は、
・外国投資家に対する現地労働者の雇用
・電池分野など一部セクターにおける技術・ノウハウ移転
を求める必要性に言及しており、EUにおける投資審査が、産業政策・競争力強化と結び付いた形で進化していることを示しています。
森林破壊フリー製品規則(EUDR)について
EUは、EU市場で流通・消費される製品が、世界の森林破壊や森林劣化に寄与しないことを確保するため、森林破壊デューディリジェンス規則(Regulation (EU) 2023/1115)を導入しました。本規則は、温室効果ガス排出削減および生物多様性保全を目的とするEUの環境・サステナビリティ政策の一環です。
規則の概要
・対象コモディティ(牛、木材、カカオ、大豆、パーム油、コーヒー、ゴム等)およびその派生製品について、森林破壊や森林劣化に由来しないことの証明を義務付け
・EU市場への上市、またはEUからの輸出を行う事業者・取引業者が対象
対象となるコモディティについては、森林破壊または森林劣化に関与する形で生産されるリスクの水準に基づき、生産国が以下の3区分に分類されています。
- 低リスク国:1%(EU当局による遵守チェック割合)
- 標準リスク国:3%(EU当局による遵守チェック割合)
- 高リスク国:9%(EU当局による遵守チェック割合)
日本は、現時点で「低リスク国」に分類されています。これにより、日本国内で生産されたEU森林破壊防止規則(EUDR)対象コモディティをEU市場に供給する場合、EU当局による遵守チェックの割合は最も低い水準に設定されています。
目的
・EUの消費が森林破壊・森林劣化に与える影響の防止
・年間少なくとも3,200万トンのCO₂排出削減
・農地拡大に起因する森林破壊・劣化への包括的対応
適用時期と簡素化措置
本規則は当初、2025年末からの適用が予定されていましたが、規則の目的を維持しつつ行政負担を軽減するため、適用開始時期の延期および簡素化措置の導入が合意されました。これにより、適用開始時期は以下のとおりとなっています。
・大企業・中堅企業:2025年12月30日
・零細企業・中小企業:2026年6月30日
また、簡素化措置として、以下が盛り込まれています。
・必要なデューデリジェンス声明の提出義務および責任は、製品を最初にEU市場に上市するオペレーターのみに帰属
・サプライチェーン上では、最初の下流オペレーターのみが、当初のデューデリジェンス声明の参照番号を収集・保管すればよく、それ以降の事業者に引き継ぐ必要はなし
・零細企業および小規模の一次オペレーターについては、一度限りの簡素化申告を提出すれば足り、付与される申告識別子によりトレーサビリティが確保される
・行政負担軽減の観点から、書籍、新聞、印刷された画像などの一部の印刷製品は、森林破壊リスクが限定的であることを踏まえ、規則の適用範囲から除外
本暫定合意は、発効に先立ち、両機関による承認および正式採択を経る必要があり、その後、現行のEUDRに代わって効力を有することとなります。
EU一般データ保護規則(GDPR)
近日更新予定
データ・ガバナンス法(Data Governance Act)とデータ法(Data Act)
近日更新予定
デジタル市場法(Digital Markets Act)
近日更新予定
外国補助金規則(Foreign Subsidies Regulation)
近日更新予定
免責事項
日欧産業協力センターは、このウェブページで紹介されている募集や提案には一切関与していません(すなわち、募集に関連して提出された質問や申し出の受付や処理には一切関与していません)。本ウェブページの内容は、一般的な情報および非商業的な目的でのみ利用可能です。本ウェブページは、包括的または最新であることを主張するものではなく、法的またはその他の助言を提供することを意図するものではありません。いかなる方も、資格を有する専門家の助言を得ることなく、本ウェブページの内容に依拠すべきではありません。
本ウェブページに掲載されている募集やその他の提案以外の「欧州投資ハブ」に関するご質問は、担当Eメールまでお問い合わせください: kenji.matei.obayashi@eu-japan.or.jp
