ヴルカヌス・イン・ヨーロッパプログラム
 日本人学生対象

 

大南 武尊
ヴルカヌス・イン・ヨーロッパ2017年度派遣

語学研修:英語(イギリス)& リトアニア語(リトアニア)
企業研修:Altechna R&D UAB社(リトアニア)

はじめに

アカデミアか企業か。研究の道にいる学生の多くが一度は考え悩むことではないだろうか。かくいう私もその一人だった。理論物理研究のセンスがなかったが、研究は好きだった。また私は変わったことが好きだ。王道でないもの。予定調和外。それ故典型的な進路とはちょっとずれて、最初の問いを考えたいと思った。

そんな時友人の言葉を思い出した。
“ふと出会った縁のあるものに全力で投球し、そこから何か見出すということもあるのではないか。目的を忘れて純粋に踊ろう。”

そこで1年間のヴルカヌスプログラムに参加した。このプログラム最大の特徴は、柵に囚われずネットワークを構成できる自由度と、想像力を超える機会だと思う。ここでいうネットワークとは何か。それは、理論と実践、学生と企業、日本と欧州、思考と価値観、そして人と人との繋がりが織りなす総体であり、単なる人の繋りの集合体ではない。

仰々しく聞こえるかもしれないが、どういうことか見ていこう。

語学研修にて

最初の4ヶ月は語学研修を行い、残り8ヶ月はリトアニアの企業でインターンを行った。
派遣先企業の要請で最初2か月はイギリスで英語を、残り2か月はリトアニアでリトアニア語を学んだ。

イギリスの語学学校が位置していたのは南部の観光地。地方都市であったが、語学学校が乱立していることにより経済が回っていることが興味深い。語学学校が数多あるから多くの学生が滞留する。結果ホストファミリーが増え、商店が増えて、税収が増える構造になっている。

ホストファミリーは多く存在するため良し悪しがある。中には理不尽なものもまれにはあるが、一般に起こりうる不平不満は文化的差異によるものかもしれない。重要なことは交渉力である。交渉の例が食事の改善である。私のホストファミリーは、学生には野菜を一切出さない人たちだったが、交渉の末「野菜」を出してもらえることになった。

その交渉の役に立ったものが語学学校の授業である。語学学校では、入学試験の結果によってクラスが分けられ、生徒にあった授業が受けられる。私はビジネス関係には疎かったため、それに関連した授業を受けた。そこで学んだイギリスの言い回しや語彙が、先の交渉で役に立ったのである。学校はアジア圏と中東圏の学生が多く在籍しており、肌間でアジア圏、中東圏、欧州圏、南米圏の割合が4:3:2:1であった。それ故、アジア圏や中東圏の人とのつながりが多くなる。

交渉の結果向上した食生活 (上:before, 下:after)
*         

リトアニアではVilnius大学のサマーコースでリトアニア語を学んだ。コースには総勢86名もの人が世界32か国から参加しに来ていた。近隣のジョージアやウクライナ、一番遠い人ではブラジルからリトアニア語を学びに来ていた。なぜ彼らはマイナーなリトアニア語を学ぶだろうか。その理由は、ほとんどが想定外。あるものは歴史研究のため、またあるものは作曲のため。他にも言語学者でリトアニア語だけ話せなくて悔しいから学びに来たおじいさんや、配偶者がリトアニア人でよりコミュニケーションをしたい老若男女。一番印象に残っている人は、祖父母の代からのリトアニア移民の少女。祖母以外誰も家族はリトアニア語を話せない。そのため祖母と心を通わせたいからとリトアニア語を学びに来たそうだった。

マイナーなリトアニア語を学ぶことに神秘的な印象を受けたことを今でも覚えている。

コースはレベル別に6つのクラスに分かれ毎日6時間リトアニア語を学ぶ。クラス毎の授業は異なるものの、夕方からは全員参加の歴史、文化政治といった授業もある。また毎週遠足があり、大統領府を始めとしたリトアニアの有名地に連れて行ってもらえる。教科書の2次元的な情報だけでなく、3次元的な情報に触れる機会が多かった。さらに、コースの最初と最後に盛大なパーティーが用意されている。最後のパーティーでは、皆すべてを忘れリトアニアの伝統的な踊りをはじめ様々な踊りに興ずる。ダンスで偶々私のパートナーになった香港人女性は、研究者だった。面白いことに彼女は「ダンスをし終えると、悩み事が解決の方向に行くことが多い」と言ってた。踊っていた私は、どこかで聞いたことがあるなとその時は思っていた。
                                                                                                                                                                              

コンテンツが凝縮されたコースの中、多くの学びと人とのつながりを構築できた。
総じて語学研修で思ったことは、学びという共通の目的で集うからこそ、柵もなくフラットに人とのネットワークを構築できるということだ。また世界中の人と交わる機会が多いため、差異を知覚しやすく想像もしていなかった考えに触れる機会が多い。

企業研修にて

リトアニアは旧ソ連の流れからレーザー産業が盛んな国である。
私のインターン先企業は、レーザーによる半導体加工を行っているベンチャー。受け入れを初めて行う企業だったため、業務内容は事前に話し合いを重ね、OJTを通し見つけていくことで合意した。

OJTと言っても、人数が少なく私の相手をしている暇もないため、関われる仕事を自分で探さなければいけない。業務を探していたある日、レーザーの評価するために半導体に穴を開け、目視でそれを測定していることに驚いた。そこで半導体評価のための画像処理を提案し実行。画像処理は初めてだったが、色々調べながら評価プログラムを作成。無事採用された。偶々であった画像処理に全力を注ぎ、副次的に画像処理にはまったことは言うまでもない。

他にも実験計画法を用いたレーザー評価のための実験の効率化、日本企業への営業活動を行った。ほとんど自前で仕事を探し実行するインターンのスタイルだったため、自由な活動も許された。自由活動で学会に参加する機会や他のレーザー企業訪問する機会、日本とリトアニアを知っている理系の日本人ということで、ほんの少しだが政府の仕事を手伝う機会にも恵まれた。

想像をしていた事の先、想定外のことが多く起こり、広いネットワークが構築できたと思う。

目的を忘れて純粋に踊ろう

様々な出会いの中で、好奇心に従って面白いことをする人々と殊勝多く交流した。プログラムを通し、冒頭の問いは「どんな面白いことをしたいのか」というものに変容していた。結果、新しいものの創発や美、表現というものが興味の対象であったので、現在は偶然出会ったビューティカンパニー(※会社がそう表現しているため)ではまった画像処理を用いながらAI関連研究員とアクセラレーションプログラムの運営をしている。

問いが変容した理由は、プログラムを通して新しいネットワークを手に入れたからであろう。冒頭でも述べたようにこのネットワークとは単なる人の繋りの集合体ではない。

では何故ネットワークは問いを変えたのか。

見知ったコミュニティの中では、境界の見えた小さなネットワークしか形成できない。
結果、想像できる範囲の行動に着地してしまうことになる。これは悪いことではない。しかし勝手ながら面白味が欠けると思ってしまう。想像力の先に行くことで、面白い方向に行ける。他人から見たら「なぜそんな方向に行ったのか」というもの。しかし振り返ると、点がつながっているように思えるのだ。ネットワーク形成の重要性は、思いもよらなかったもの同士が連結し、相互作用し、新たな視座で今までにない価値創造が出来ることにある。

ネットワークの要素である価値観を例に取ろう。価値観の集合体を価値観空間とした時、同じような人に揉まれた環境では、境界の見えた価値観空間にいるだけになってしまいがちである。違う空間の人が擾乱を起こすことで、価値観空間が境界を超える。これが、価値観が揺さぶられるという現象である。“価値観が拡がった”という手垢のついた言葉があるが、もちろん日本にいても価値観を拡げることは出来る。重要なのは、身をおいた先で、どのような体験を通し、価値観が揺さぶられ、どう自分の価値観が変わるかである。海外という場に身を置くからこそ、境界の先に出会いやすい。そして、想定外がより想像の先へとネットワークを広げてくれる。友人の言った、ふと出会った縁のあるものに全力で投球するとは、あらゆる境界を超えるきっかけなのだ。

あれを決めなければいけない。これを解決しなければいけない。人生において何かしらの悩みや目的にとらわれることは、しばしばあるだろう。しかし、一旦その「しなければいけない目的」を忘れて何か異なることをしよう。例えば踊る。異なる体験の先で出会ったものが、想像力の先に誘ってくれるかもしれない。そしてセレンディピティが訪れるかもしれない。

だから目的を忘れて純粋に踊ろう。

                                                                                                                                                                         

(2020年 執筆)

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